DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


患者本位を徹底した
心臓・血管のトータルケア。

循環器内科部長 乘安 和将

 高齢化に伴い、心不全や虚血性疾患など循環器疾患になる人が増えています。ある日突然重症化し、救急搬送される例も珍しくないですが、一方で、若いうちから正しい生活習慣を身に付けることで、その発症を防ぐことができます。<治す>から<防ぐ>まで、患者さんと医療者が二人三脚で意思決定を実現する「患者さん中心」の循環器医療を目指しています。

 同科の取り組み、増え続ける心不全や虚血性心疾患の病態と診断・治療、心臓血管外科との密接な連携、循環器疾患を早期発見・予防するための対策などについて、日本循環器学会認定循環器専門医の乘安和将部長にお話を伺いました。

循環器内科では、どういった診療を行っていますか?

 循環器内科は、「心臓」や「全身の血管」などを専門に診る診療科です。具体的には、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、心臓にある弁に異常がある弁膜症、心臓のポンプ機能が低下して全身に必要な血液を送れない状態になる心不全、心臓の拍動である脈が乱れた状態の不整脈、生活習慣病の一つで心臓だけでなく脳や腎臓の病気の発症・悪化の原因となる高血圧症などに対する内科的な治療と、それらの病気の早期発見・治療のための検査にも対応しています。また、心臓血管外科、麻酔科、放射線科、救急医療部、コメディカルとの緊密な連携のもと24時間体制で循環器領域の救急医療に取り組んでいます。

高齢化社会の進展に伴って、心臓や血管など循環器疾患の治療を要する患者さんも高齢の方が増えています。糖尿病や腎臓病など複数の合併症を抱えているケースも多いのですが、当院では糖尿病内分泌内科や腎臓内科など他診療科との連携が非常にスムーズで、それぞれの分野に高い専門性を持つ医師が患者さんの全身の病態を総合的に把握しながら診療にあたっています。

 必要に応じて複数の診療科が横断的に患者さんを診察できる体制は、合併症のある高齢患者さんにとっても、非常に安心できる診療環境だと考えています。

よく診る循環器疾患について教えてください。

 日本人の死因第2位は心臓の病気(心疾患)で、その内訳をみると、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が3割以上を占めています。虚血性心疾患とは、簡単にいうと心臓に栄養を送る血管のトラブルです。生活習慣病などによって動脈硬化が進むと、その血管内部にコレステロールの塊がこびりつくようになります。それによって血液の通り道が細くなり、心臓に十分な栄養分(血液)を送れなくなる症状を狭心症といいます。主な症状は圧迫されるような胸の痛みです。狭心症はいわば慢性疾患ですが、一方で急性で起こるものが心筋梗塞です。動脈硬化が進んだ冠動脈が、急に血の塊が生じて閉塞し、心臓の筋肉に十分な栄養を送れなくなります。血管が塞がれると心臓壊死が始まり、一度壊死してしまうと元には戻らず、心臓のポンプ機能が失われてしまいます。急激に発症して命を落とすこともある上、回復しても日常生活に支障を来す恐ろしい病気です。動脈硬化は生活習慣病が主な原因なので、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などに該当する方は、できるだけ早く治療していく必要があります。

虚血性心疾患の他に、知っておきたい循環器疾患について教えてください。

 現在、当科で最も多く診る病気は心不全です。国内の患者数は約120万人で、今後も増加が見込まれており、2030年には130万人に達すると推計されています。心不全は正確には病名ではなく、心臓のさまざまな病気が行き着く最後の段階をいい、心臓が弱って血液を送り出すポンプ機能が低下し、全身に血液が行き渡らなくなっている状態を指します。このため、疲労感や手足の冷え、むくみや息切れが生じます。いったん症状が出ると、悪化と回復を繰り返しながら心臓が徐々に弱り、命を脅かします。

 心不全は心筋梗塞や弁膜症、不整脈といった心臓の病気がきっかけとなって進行していきますが、元をたどると、これも虚血性心疾患同様に高血圧症などの生活習慣病が原因です。年齢を重ねれば心臓が弱っていくのは避けられないですが、食事や運動などの生活習慣を見直せばリスクは減らせます。若いうちから生活習慣に気を配り、原因となる心臓のさまざま病気を予防し、心不全の発症・悪化を防ぐことが何よりも重要です。また、もし心不全になっても早くに治療すれば、機能が低下して大きくなった心臓を小さくできます。息苦しさなどの症状が出たら、年齢や運動不足のせいと済ませずに、循環器内科を受診して早期診断や治療につなげることが大切です。

 近年、血圧を高くする病気として注目されている「原発性アルドステロン症」の診断・治療に力を入れているのも当科の特色の一つです。

 以前は比較的珍しい病気と考えられていましたが、最近は、高血圧患者さんの10人に1人くらいの割合で潜んでいるといわれています。カテーテルを使った血液検査など診断方法が向上したことで、これまで原発性アルドステロン症と診断されていなかった患者さんが、的確に診断されるようになってきました。無治療のままだと当然、狭心症や心筋梗塞、心不全の発症・悪化するリスクは高まります。薬物療法や手術など病態・病状に応じた適切な治療で血圧は下がりますので、早期発見・診断が重要です。きちんと病院に通って降圧剤などで治療しているのに血圧がコントロールできない場合などは、原発性アルドステロン症の可能性を疑ってみる必要があります。

心臓や血管の病気の患者さんに対し、内科と外科が連携して治療にあたる動きが医療現場に広がっていますが、患者さんにとってどのようなメリットがあるのですか?

 当院では、毎月一度、私たち循環器内科と心臓血管外科の合同カンファレンスが開催され、患者さんの治療方針などについて意見を交わしています。また、合同カンファレンスに限らず、両科の医師・スタッフは毎日顔を合わせますから、それぞれの立場から治療の効果とリスク、患者さんにとっての利益と不利益などを徹底的に議論し、患者さんにとって最善・最良の治療を模索しています。
 例えば、弁膜症の患者さんのケース。心臓超音波(心エコー)検査などで弁に血液の逆流や通過障害など明らかな異常が認められれば弁膜症と診断されますが、即手術となるわけではありません。自覚症状がなく、弁の異常の程度が低いと、心臓の負担や症状をやわらげるための薬などを処方し、経過観察とする例も少なくないです。経過観察中は、不整脈や血栓などの変化を見逃さないため、定期的に画像検査などを実施していきますが、当科と心臓血管外科を中心に、必要に応じて他診療科ともチームを組み、逆流があるかどうかや弁の傾き、狭窄の状態のほか、肺や腎臓の機能など患者さんの状態を見極め、内科的治療を続けていくか、弁を修復したり取り換えたりする手術を実施するかどうか、また高齢の患者さんで体力的に手術が難しい方であれば、手術より体への負担が少ないカテーテル治療を実施する医療機関への紹介も検討するなど、患者さんに最も適した治療や患者さんにとってベストな選択の可能性を追求していきます。
 当院の最大の強みは、診療科の間の垣根が低く院内の風通しがよいことだと私は考えています。各科の医師・スタッフ同士が互いをよく見知っているから、必要な時は特別な手続き抜きで相談できます。こうしたフットワークのよさは、必要な時に必要な医療を提供することを可能にし、真の「患者さんのための医療」につながっていると思います。

どのようなことを心掛けて診療にあたっていますか?

 患者さん本人の意思を何よりも大切にしています。医療者は患者さんの状況や希望を聞いて治療法を提案し、選択のお手伝いをする存在だと私は思っています。循環器疾患の治療法はいろいろありますが、その中から何をするのか、あえてしないのかを選択する基準は、「患者さんが心から納得し、満足できるかどうか」「患者さんが幸せになれるかどうか」です。これからも患者さんとしっかり話をして信頼関係を育みながら、患者さんの意思や意見を十分に尊重し、協同でつくり上げる医療を提供していくつもりです。

最後に読者にメッセージをお願いします。

 繰り返しになりますが、心不全や心不全の原因となる心筋梗塞、弁膜症など循環器疾患の多くは生活習慣病に起因します。健診で高血圧症や糖尿病、脂質異常症と指摘されたら、それはもうすでに心不全や突然死につながる坂道を転がり落ちている状況にあることを理解してください。生活習慣病の発病は突然でなく、一般的には何年も前から健診結果などから予兆を知ることができるので、予防の第一歩は禁煙、減塩、運動といった生活習慣の改善であり、その段階で病気の芽を摘んでおくことです。
 生活習慣病など循環器疾患のリスクがある方は、定期的に心電図検査や心臓超音波(心エコー)検査、心臓CT検査などで自分の心臓の状態を把握しておくことが重要です。当院では2022年春に、心エコー検査を専門とする循環器内科医が新たに着任し、診断力の向上に努めています。心臓の動きや機能、弁膜症や生まれつきの構造異常など多くのことを一度にくまなく調べることができます。また、心臓など動きのある臓器も撮影できる320列CT装置を導入し、冠動脈の状態をより鮮明な画像で確認できるようになりました。造影剤の注入も静脈注射だけで済み、従来のようにカテーテルを血管内に挿入する必要がないので患者さんの負担はかなり軽減されます。
激しい胸の痛みや息苦しさに顔をゆがめて苦しんでいた患者さんが、その後の適切な治療を経て回復し、笑顔で帰っていく姿を見る時、循環器内科医としてやりがいを感じます。これからも引き続き、循環器疾患の緊急対応から健康寿命の延伸を目指した慢性期管理、予防・再発予防まで幅広く見守っていく医療機関でありたいと思っています。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2022年4月時点(インタビュー時点)のものです。

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