DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


多様な検査と丁寧な指導で、
病気の予防と早期発見に一役

ドックセンター長 遠藤 三紀子

 健康で質の高い生活を送るには、定期的な体の点検が重要です。自分の体の健康にどんなリスクがあるのかを知り、病気が「芽」を出さないよう生活を改善すること。そして、病気を発症してしまったなら、できるだけ早く発見し、適切な治療を受けられるかどうかがその後の人生を大きく左右します。病気の予防と早期発見・治療のために欠かせない、健康診断やがん検診。こうした健診・検診で行われる検査を一度に受けられる機会が「人間ドック」です。
 NTT東日本札幌病院人間ドックセンターの取り組みや人間ドックとして行われる検査の内容、人間ドックの大切さ、人間ドックの上手な受け方など、日本人間ドック学会認定医、日本内科学会認定総合内科専門医・日本糖尿病学会認定糖尿病専門医の遠藤三紀子ドックセンター長にお話を伺いました。

そもそも「人間ドック」とはどのようなものなのでしょうか?

 「人間ドック」というネーミングは、船の点検や修理をするドックに由来するといわれています。長い航海の後、ドックに入って点検・修理する船のように、人間も定期的にドックで総点検することが必要だという思いから名付けられたと考えられています。
 法律で年1回の実施が義務付けられた会社の健康診断などと違い、個人が任意で受ける検査である人間ドックの役割は、大きく分けて2つあります。一つは、将来、重大な病気に進展しそうな要因(高血糖、高血圧、脂質異常症など)を見つけ出して早期に対処すること。もう一つは、職場の定期健診や特定健診などでは分からない病気(がん、動脈瘤、不整脈など)を早期に発見して適切な医療につなげることです。いずれも、病気の「芽」を早くつみ取り、健康を維持・向上させることが目的です。基本的なコースで数万円の費用がかかりますが、最近は検査内容が多様化し、多くの病気の早期発見に役立つようになってきています。

NTT東日本札幌病院のドックセンターの特長について教えてください。

 当ドックはもともとNTTグループ職員(NTT健康保健組合の被保険者・被扶養者)のための健診施設でしたが、現在は広く一般の皆さんにもご利用いただいております。2022年度に全日本病院協会(全日病)健保連人間ドック実施指定施設に認定された影響もあり、一般の方々の利用者数が増加傾向にあります。
 当ドックでは、一般向けの「基本コース」「充実コース」と、グループ職員向けの「NTT健保組合通院ドック」の3種類のコースを用意しています。すべて日帰りでの検査となります。基本コースは、日本人間ドック学会が推奨する基本的な検査項目を網羅したコースです。身体計測をはじめ心電図、胸部のエックス線、肺機能(※1)、胃カメラ、視力・眼底・眼圧、血液や便潜血検査など約20項目にわたります。充実コースは基本コースの内容に加えて肺CT、肝炎ウイルス、腫瘍マーカー、梅毒、動脈硬化、血管年齢、骨密度などの検査が含まれます。また、NTT健保組合通院ドックは基本コースに加えて、男性は前立腺がんの早期発見に役立つPSA、女性は子宮や卵巣を観察する婦人科エコーとマンモグラフィー、子宮頸がん細胞診などの検査が含まれます。さらに、オプション項目として大腸内視鏡や胃がんリスク判定、心疾患リスク検査、心臓エコー、子宮体がん細胞診、認知症リスク判定(※2)、ゲノムドック(※3)、腸内フローラ(※4)などの検査を加えることも可能です。
 当ドックは総合病院に併設されているメリットを活かし、院内の各診療部門と密接に連携し、精度の高い検査を実施しています。検査や診断に院内外の多くの専門医が携わり、画像やデータを電子カルテなどで共有し、緊急時など必要に応じてすぐに該当科の専門医によって精密検査や専門的治療を行う体制を確立しています。主な検査結果については受診当日に、説明を実施し、時間のかかるものは2〜3週後に自宅にお送りするのですが、緊急性が高い場合は該当科に連絡をとり、当日に受診していただくこともあります。過去には、検査で腎機能障害が見つかり即日入院したケースや、胃カメラでアニサキスが見つかり摘出したケースのほか、各種がんや不整脈、甲状腺疾患、糖尿病、肝機能障害、網膜剥離などが見つかったり疑われたりし、当日や近日中の受診に切り替えて治療された方もいらっしゃいます。各診療科、地域の専門医療機関との連携体制が整っていることで「人間ドックの各種検査が、必要な医療に直結している」のが、当ドックの大きな強みだと思います。

どういったことを心掛けて検査・診療にあたっていますか?

 より確かで安全な検査を行うために事前情報を重視し、看護師による問診結果や当日の身体の状況を考慮して検査を実施しています。また、過去の病歴や検査結果なども可能な限り確認し、実際に病気でない人やすぐに治療の必要のない人が精密検査を受けることにつながらないよう(過剰診療・治療につながらないよう)注意を払っています。検査結果の説明では、画像やデータを供覧しながら、できるだけ分かりやすく詳細に説明することを心掛けています。
 当ドックは企業検診が多く、またリピーターの方が多いこともあり、長期間にわたって画像やデータを保存しています。将来病気に進展しそうな要因を見つけ出し、発症前に対処して未病対策を行うには、検査結果が毎年どのように変わってきているのかという経年変化を追うことが重要です。経過を追っていくと、以前の画像やデータと比較した現在の身体の状態についてお話しできることも多いです。前回の人間ドック後に食事や運動を工夫されて、血液検査の数値が良くなっているときなど、一緒に喜び合えることがうれしいですね。
 生活指導の際によくお伝えすることなのですが、皆さんは「メタボリックドミノ」という言葉をご存じでしょうか。遺伝的背景(体質)に生活習慣の乱れなどが加わり、肥満、その後「食後高血糖」「血圧上昇」「脂質異常」などの生活習慣病が次々と連鎖して起こり、最悪の場合は死につながる重大な病気を招いてしまう状況をいいます。私は糖尿病専門医として糖尿病をはじめとする生活習慣病の診療にもあたっていますが、生活習慣病は予防に勝るものはありません。ドミノが倒れ始めても、倒れたコマが少なければ少ないほどとめやすくなります。できるだけ早く手を打つことが、連鎖を防ぐ鍵となります。血糖や血圧、脂質は異常値になっても自覚症状がないため、人間ドックや健診で定期的にチェックして早めに指摘してもらう必要があります。3年近く続いたコロナ禍によって定期的に健康状態を確認する機会を逃してしまっている人は、以前にも増して健康リスクが高まっていることを認識してもらいたいと思います。

コースやオプションの選び方など、人間ドックの上手な受け方についてアドバイスをお願いします。

 健康診断と比べて人間ドックは検査項目が多く、自分の受けたい検査を選べるメリットがある半面、オプション検査を含め、どのような検査をどれくらいの頻度で受ければよいのか迷うことも少なくないと思います。
まず知ってほしいのは、人間ドックは症状がない人を対象とした検査だということです。気になる症状があって診てほしい場合は、その症状に合わせた検査が必要になるので最初から病院やクリニックを受診してください。初めて人間ドックを受診する場合は、自覚症状のない段階でリスク因子や病気を早期に発見するという目的から、まず一通りの検査が行える「充実コース」の受診をお勧めします。オプション検査について迷う場合は、申し込みの際に年齢や生活習慣、家族歴などご本人が心配している事柄、調べたいと思っている事柄をもとに、ご相談ください。
 人間ドックで病気が見つかるケースは多いです。メタボリック症候群なども含め、生活習慣病を広くカバーしていますし、がんについても調べます。誰もが気になるのはがんでしょう。検査と発見できるがんの組み合わせとしては、「胃カメラ:胃がん、食道がん」「胸部X線、肺CT:肺がん」「便潜血検査、大腸カメラ:大腸がん」「腹部超音波検査:肝臓がん、胆のうがん」「PSA:前立腺がん」「マンモグラフィ、乳腺エコー:乳がん」「婦人科エコー、子宮頸部細胞診:子宮がん」などがあります。がんの罹患リスクには、年齢、性別以外に家族歴や生活習慣、嗜好品、感染症(肝炎ウイルス、ヘリコバクター・ピロリなど)も関係し、人によって危険度は異なります。そのため、オプション検査や検査方法の選択、受診頻度などについては、医療スタッフによく相談してから申し込まれるのがよいと思います。
 人間ドックの結果判定はA〜Eに区分されます。このうちCは再検査や追加検査、生活習慣の改善が、Dは精密検査または治療が必要になります。がんなどが見つかって緊急性が高いときは医師から直接連絡が入ることもあります。生活習慣病にかかわる検査項目でCやDの判定になったときは、結果説明で自分の検査値について医師からよく説明を聞いたうえで生活習慣指導や治療を受ける必要があります。また、各種がんにかかわる検査項目でD判定になったときは、放置せずに精密検査を必ず受けてください。ここで勧められた精密検査や治療を受けなければ、お金と時間をかけて人間ドックを受けた意義・意味はなくなってしまいます。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 繰り返しになりますが、人間ドックの目的を最大限に活用するには、自覚症状のない段階で定期的に受診することが何よりも大切です。
 何かの病気で定期的に病院やクリニックに通っている方の中には、人間ドックを受ける必要はないと考える人もいます。しかし、その病院やクリニックでの保険診療は、問題となっている特定の病気とその関連の範囲でしか診ることができないので、全身のチェックはなされていないことが多いと思います。ですから、「ほかの病院・クリニックにかかっているから」という理由で人間ドックを受けなくていいということではなく、定期的に人間ドックを受けて「広く自分の体の状態を知っておく」ことが重要なのです。
年齢を重ねれば、身体に不具合が出てくることは避けられませんが、人間ドックを上手に利用して身体をメンテナンスし、健康の維持・向上に役立ててほしいと強く願います。人間ドックは高額ですが、所属されている健康保険組合などによっては、補助金もしくは助成金を受けられる場合がありますので確認してみてください。

※1 一般社団法人 日本呼吸器学会、日本人間ドック学会において周囲への飛沫感染の可能性が懸念されるため、現在休止中(2023年6月現在)
※2 加齢に伴うもの忘れと認知症の間に軽度認知障害(MCI)と呼ばれる“認知症予備軍のグレーゾーン”が存在していることが明らかになっています。MCIの段階で適切な予防を行うことで、認知症への移行を食い止めることもできるといわれています。認知症リスク判定は、アルツハイマー型認知症発症の主な原因の一つとされるアミロイドβを排除するたんぱく質などを測定し、MCIのリスクを判定する血液検査です。
※3 NTTライフサイエンス社が提供するゲノムドック「Genovision」は、人間ドックの際に血液を採取し、遺伝子学的検査を通じて約90の病気の罹患リスクや体質の傾向などのレポートを作成するほか、遺伝子学的検査の結果をベースに将来に備えて食生活や運動での注意などを促したり、助言をしたりする医療サービスです。
※4 ヒトの腸内に棲み着くさまざまな腸内細菌は「腸内フローラ」とも呼ばれ、多くの疾患と深く関わっていることが明らかになりつつあります。この検査では腸内細菌のパターンを5つに分類し、その特徴やなりやすい病気、腸内細菌のバランスを改善するための食生活のアドバイスなどを受けることができます。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2023年6月時点(インタビュー時点)のものです。

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