DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


「人を診る」という
医療の原点を大切に。

呼吸器内科部長 西山 薫

 肺がんを中心に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支ぜんそくなど幅広い呼吸器疾患に高度な専門性を活かし対応。患者を全人的に診て、その人生に寄添う温もりと思いやのある医療の提供をめざしています。

 同科の取り組み、肺がんの早期発見の重要性と最新の内科的治療、COPDの病態と診断・治療、加熱式たばこの健康リスク、日々の診療に対する思いなどについて、西山薫呼吸器内科部長にお話を伺いました。

呼吸器内科では、どういった診療を⾏なっていますか?

 呼吸器疾患全般において特に高い専門性が求められる疾患の診療を担当していますが、他医療機関からの紹介患者さんだけでな、紹介状を持たない初診の患者さんの診療も行ています。具体的には、高齢化社会の進展に伴い増加が避けられない肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、日本人の死因第5位である肺炎をはじめとする呼吸器感染症、気管支ぜんそなどアレルギー疾患のほか、診断に高度な専門性が必要とされる間質性肺疾患、その他希少疾患、難治例の治療に携わています。

 地域に密着した市中病院の呼吸器内科として、気管支ぜんそくやCOPDなど身近な病気の初期段階での適切な処置や今後の療養方法について指導することに重点をおいた診断・治療に努めつつ、急性期病院としての役割も担っています。呼吸器外科等、複数診療科との緊密な連携の下、院内で肺がんを中心とするあらゆる呼吸器疾患への対応が完結できる強固な体制を維持し、最新の知見と技術に則った高水準の医療を提供しています。

よく診る呼吸器疾患について教えてください。

 当科では、日本におけるがん死亡原因の第1位の「肺がん」診療に最も重点を置いています。年間7万人以上の方が亡くなり、北海道は全国の中でも肺がん死亡率が特に高い地域です。肺がんは喫煙者に多く発症しますが、たばこを吸わない人でも、他人が吐いたたばこの煙を吸い込む受動喫煙などで発症する場合があ特に性は増加傾向にあます

 早期の段階で発見できるほど治癒する可能性は高くなりますが、進行した状態で発見される方が多いのが現状です。これは早期の肺がんでは自覚症状がないことが一因です。進行にしたがって咳や血痰、胸痛、呼吸困難などといった呼吸器の症状があらわれますが、これらの症状は肺がん特有の症状というわけではなほかの呼吸器疾患との区別が困難であること介な点です

 手遅れにならないために何よりも重要なのは、「症状がないうち」にがんを見つけることです。無症状の肺がんを発見するためには、肺がん検診が非常に重要ですが、検診受診率が低いことが問題になっています。
 肺がんに罹患する危険性が高まる中高年や喫煙歴のある方は、できれば毎年受けてほしいです。コロナ禍にあって、受けるべきがん検診や市町村の住民健診、職場での健康診断を見送った人がいるかもしれません。日本対がん協会の調査では、新型コロナウイルス感染症の流行で、2020年のがん検診の受診者が30%減少していると報告されています。受診しないまま1年が過ぎてしまうと、早期発見で治療できるはずの病も進行してしまう恐れがあります。
 がん検診は不要不急ではありません。検査機関や医療機関の感染対策も進んでいるので、「今は健康だから大丈夫」「症状がないから大丈夫」ではなく、積極的に受診してほしいと思います。

肺がんの内科的治療について教えてください?

 肺がんの治療には手術療法、放射線療法、化学療法、免疫療法の4つがあり、がんの種類や進行の程度(病期)によって、それぞれ単独で行ったり、組み合わせたりします。肺がんの8割を占めるのが「非小細胞がん」というタイプで、早期の場合、手術で切除するのが標準的な治療法です。
 根治をめざせますが、がんが発見さ
れた段階で手術可能な進行度の人は約2〜3割しかいません。進行して切除できない場合、放射線療法や化学療法で対応します。当初は手術ではがんを取り切れないと判断された患者さんであっても、放射線療法や化学療法によ病巣が小さくなり、手術が可能になる場合もあます肺がんは化学療法の研究の進歩が著しいです。従来の抗がん剤治療では、治療効果に限界がありました。しかし現在は、特定の癌遺伝子を持つ肺癌に対する「分子標的薬」、癌に対する免疫細胞の力を回復させることでがん細胞を排除する「免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)」などが登場し、当科でも良好な治療成績を上げており、進行がんでも元気でいられる期間が延ばせるようにってきました。
 がん
をピンポイントで叩く高精度な放射線治療も進化していて、当院の放射線科には、呼吸によって位置が動く肺がんにも正確な放射線照射が可能な動体追跡放射線照射が導入されており、正常組織への照射線量を減らし、身体的負担や苦痛が少ない放射線治療力を入れています。
 
肺がん治療の現在、そして今後を見据えた時、患者さんにとって最善・最良・最適な治療を行うためには診療科、職種横断的に協力し合い、患者さんを中心とした包括的で個別的な治療を行う必要があると考え、病院が一丸となって強力に推進しています。

近年、COPDという病名をよく耳にするようになりました。どのような病気ですか

 COPDは、たばこの煙などに含まれる有害物質を長期間にわたり吸い込むことで発症する進行性の肺の病気です。酸素を取り込む肺胞が壊れたり、空気の通り道の気管支が炎症を起こしたりして、息切れや咳、痰の症状が続きます。重症化すると酸素吸入が必要になり、日本では2020年にはおよそ1万6千人がこの病気で命を落としています

 呼吸器内科では胸部レントゲン、胸部CTなどの画像検査や気道の通りやすさを客観的に調べる呼吸機能検査などを用いてCOPDを正確に診断することができます。COPDによって壊れてしまった肺の組織は残念ながら元には戻せませんが、進行を食い止めることはできます。年を取っても元気な生活を送れるよう、早期に発見し、に治療に入るこが重要です。

 治療は、喫煙者は禁煙が最優先です。その上で、呼吸を楽にするため、炎症や痰が詰まって狭くなった気管支を広げる薬を吸入します。呼吸理学療法(リハビリテーション)も非常に有用で、積極的に取り組んでいます。完治はしませんが、治療は進歩しており、禁煙や治療開始が早いほど呼吸機能の回復が期待できます。

火をつけない加熱式たばこのシェアが拡大していますが、健康上のリスクはありますか

 加熱式たばこは、たばこの葉を燃焼させずに加熱して、ニコチンなどを含んだエアロゾル(微粒子)を発生させます紙巻きたば煙も臭いも少なく健康リスクがほんどないように宣伝されていますが、呼吸器内科医の立場かする加熱式たば発生するエアゾルも有害と考えられます

 加熱式たばこを使用した場合のニコチン摂取量は、従来の紙巻きたばこと比べほぼ同等かやや少ない程度であり、また、発がん性物質やその他の有害物質もたくさん含まれています。つまり紙巻きたばこ同様、喫煙者本人は肺がんやCOPD、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などにかかるリスクは高くなりますし、受動喫煙の害もあります。

 もし自分や周囲の人の健康に対する影響を考えて、紙巻きたばこから加熱式たばこへの切り替えを考えているなら、あまり効果はありません。いっそのこと禁煙に挑戦してみてはいかがでしょう。禁煙を決断した人は「禁煙外来」を受診することが成功の近道です。禁煙治療を受けた人は、治療終了時で約50%が成功しています。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 呼吸器内科という診療科が扱う病気は、肺がんや気管支ぜんそく、COPD、間質性肺炎、今後増加傾向が続くと思われるアスベストによる代表的疾患の中皮腫など、完治が難しい慢性の病態が多く、患者さんと二人三脚で長く付き合っていくことになるケースが少なくないです。患者さんの辛さや苦しみも目の当たりにしますし、スパッと病状や症状が良くなる場面がなかなかないところが、患者さんにとっても医療者にとっても呼吸器疾患と闘っていく難しさといえます。だからこそ、「病気」だけでなく、患者さんとしっかり向き合い、患者さんの価値観や人生観も丸ごと診るよう心掛けています。手を取り合い、どこまでも寄り添いながら、より良い答えを探っていく。「人を診る」という医療の原点を軸にして、日々診療にあたっています。

 新型コロナウイルス感染症がいまだ大きな脅威となっています。新型コロナウイルス感染症には、まだまだ未解明なことがたくさんあります。これまでに得られた医学的な知見や情報に基づいて、楽観することなく、過度に恐れることなく、適切に対応していく必要があります。
 何よりも重要なのは、感染しないことであり、感染しても命にかかわる状況に至ることなく、一日も早く回復することです。三密回避やマスク着用、手指消毒、小まめな換気など、各自ができる基本的な対策を一つひとつ積み上げながら、これが最後の波になることを願って、困難な時期を乗り越えていきましょう。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2022年1月時点(インタビュー時点)のものです。

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