DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


「首から上の目と脳以外」をすべて診る診療科。

耳鼻咽頭科ドクターインタビュー

耳鼻咽頭科部長 劉 澤周

    

 日本耳鼻咽喉科学会は2021年6月、「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会」に改称したことを発表しました。頭頸部とは、息をしたり、食べたり、話したり、そういう大切な役割を担う「首から上の目と脳以外」の範囲をいいます。耳鼻咽喉科(頭頸部外科)の病院やクリニックが身近にあっても、多くの人がそこでは耳や鼻、喉の疾患だけを扱うと考えているという調査結果があります。しかし、じつは耳鼻咽喉科(頭頸部外科)の守備範囲はもっとずっと広く、専門性の高い知識や技術が必要となるさまざまな疾患を診療しています。
 意外に知られていない耳鼻咽喉科の診療内容や、日常診療でよくみる疾患について、また当院の耳鼻咽喉科の取り組みや目指す医療の形など、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定耳鼻咽喉科専門医の劉 澤周(りゅう たくしゅう)耳鼻咽喉科部長にお話を伺いました。


耳鼻咽喉科では、どういった診療を行っていますか?

 一般には「耳鼻科」としてなじみ深い診療科ですが、じつはその診療範囲は、<中耳炎>や<鼻炎>、<扁桃炎>といった耳と鼻、喉についての病気だけにとどまりません。私たち耳鼻咽喉科(頭頸部外科)がカバーする範囲は、一言でいうと「脳と目を除く首から上のほぼすべての病気」です。首から上の目と脳以外の範囲を頭頸部と呼びます。例えば、唾液腺を含む首のしこりや炎症、顔面神経の障害、めまいや嚥下障害、味覚障害、睡眠時無呼吸症候群、口内炎や舌の痛み、口の中にできるがんなども耳鼻咽喉科が担当します。
 「喉が痛くて、食べ物が飲み込みにくい」「あごの下に違和感がある」など、首から上に複数の症状があったり、症状が漠然として部位を特定できなかったりする時、いざ病院に行こうと思っても何科を受診すればいいか迷う方も多いと思いますが、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診してください。脳と目を除く首から上の病気の“よろず相談所”、そんなイメージを持っていただきたいです。
 私たちが取り扱う領域には、聴覚、嗅覚、味覚といった日常生活を営む上で重要な感覚や、摂食・嚥下という生命の維持に重要な機能、発声などコミュニケーションに重要な機能があります。耳鼻咽喉科(頭頸部外科)は、これらの感覚や機能の障害を治療し、患者さんのQOL(生活の質)と命を守る診療科でもあります。
 当科の特色は、総合病院・中規模病院の強みを最大限に活かした耳鼻咽喉科・頭頸部外科診療を行っている点です。一つは、院内の他診療科と密接に連携しており、診療科の枠を超えたチームワークがあることです。したがって、一部の特殊な疾患を除き、症例を他院に搬送することなく、診断から治療までの経過を当院で完結できます。具体的にいうと、小児科や糖尿病内分泌内科、腎臓内科、皮膚科、麻酔科との密な連携は非常に重要です。例えば、乳幼児の中耳炎などはかぜをきっかけに発症するケースが多く、また、子どもの発熱は中耳炎が原因であることもしばしばです。こういったケースで耳鼻科と小児科がお互いにスムーズに連携していると、両方の科の診察が一度に受けられるので、幅広いリスクを考慮することができます。もう一つ例を挙げると、当院の腎臓内科では、腎臓病を早期の段階で診断し、治療介入を開始することで腎機能の低下を未然に防ぐことに力を入れていますが、中でも慢性糸球体腎炎の代表である「IgA腎症」においては、耳鼻咽喉科と密に連携し、扁桃摘出術+ステロイドバルス療法を用いた根治的治療を積極的に行っています。診療科の枠を超えて横断的・包括的かつ迅速に診断・治療できる体制が整っていることが、医療の質を高め、患者さんの安心・安全につながっていると思います。
 当科のもう一つの特色は、地域に密着した市中病院ならではのフットワークの軽さを活かした細やかで温かな医療を提供していることです。長くお待たせするかもしれませんが予約なしでも受診可能ですし、可能な限りすぐに必要な検査を受けてもらい、その日のうちに診断結果や治療方針をお伝えできるように努めています。診療放射線技師や看護師との連携も取れて小回りがきくので、緊急の検査もスムーズに行えます。病院が一丸となって対応する姿勢は、中規模病院だからこその風通しのよさの賜物と感じています。


どのようなことを心掛けて診療にあたっていますか?

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科が対象とする領域は、脳に近く大切な神経の通り道であることが多く、また体の中でとても複雑で繊細な部位なので、治療においても繊細な処置が多く、特に手術では精緻な手術手技が求められます。治療効果・根治性はもちろんのことですが、大切な神経や機能を守るための安全性と低侵襲性も常に追求しています。
 日々の診療で大切にしているのは、患者さんに寄り添った診療、患者さんの立場に立った診療を行うことです。そのためには、まず患者さんの話を、集中して丁寧に聞くことを心掛けています。患者さんが気軽に何でも話せる存在でありたいと思っています。一つとして同じ悩み事、困り事、相談はない中で、患者さんの思いや要望を真摯に受け止め、親身になって考え、そして、患者さんと一緒に、一番いい治療を探す、そんな医師でありたいと考えています。


よく診る耳鼻咽喉科・頭頸部外科疾患について教えてください。

 0歳児から90歳以上の方まで、幅広い年齢の患者さんが受診されていますが、中耳炎や花粉症などのアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、扁桃炎、喉の痛みなど、耳・鼻・喉の一般的な病気で来られる方が多いです。専門的な検査が必要なめまいや難聴、補聴器の相談、睡眠中のいびきなどを気にされて睡眠時無呼吸症候群の検査・治療を受けたいなどさまざまな主訴に対応しています。
 広く、深く、全般的かつ専門的に診るというのが当科のモットーですが、近年は「副鼻腔炎」の診療に力を入れています。副鼻腔炎とは、鼻の周囲にある副鼻腔という空間が細菌やウイルス感染などによって炎症を起こしている状態をいいます。一般的には<蓄のう症>とも呼ばれます。ありふれた疾患ですが、慢性化すると生活の質にも大きく影響します。症状は鼻づまりと鼻水、嗅覚低下、頭痛などが続き、中耳炎やぜんそくを併発する場合もあります。内服薬や点鼻薬など薬で治療を進めますが、なかなかすっきりしない場合は慢性化している可能性があります。
 慢性の副鼻腔炎では炎症によって副鼻腔内の粘膜が腫れているため、鼻腔との空気の通り道が塞がっている状態にあり、その通り道を広く開ける内視鏡手術が必要となります。病的に腫れた粘膜(ポリープ)を切除して本来の鼻に近い状態をつくり、鼻の持つ自浄作用を回復させるための手術です。副鼻腔は複雑な構造をしており、個人差の大きい領域です。また、眼球や視神経などとも接しているため、手術には十分な知識と精緻な手技が求められます。当科では、手術の正確性と安全性を高めるためにナビゲーションシステムを導入しています。これは、術中の器具の位置などを、術前に撮影した精密なCT画像上に表示させるもので、手術の模様をモニターの中で立体的な画像として確認できるシステムです。車でいうカーナビで、手術する医師が鼻・副鼻腔のどの位置を処置しているかをリアルタイムで確認でき、より安全で正確な手術が目指せるようになりました。手術の難易度が高い高度病変症例や再手術症例にも効果を発揮しています。
 副鼻腔炎は多くの場合、細菌やウイルス感染などで起きた炎症をきっかけに発症しますが、近年目立つのが感染を原因としない「好酸球性副鼻腔炎」です。両側の鼻の中に多発性のポリープができ、内視鏡手術をしてもすぐに再発する難治性の慢性副鼻腔炎です。最近、新たな治療薬として「分子標的薬(デュピルマブ)」が登場し、2020年3月に保険適用になりました。デュピルマブは、炎症の原因となる分子が副鼻腔の粘膜の細胞にある受容体に結合しないようにすることで、副鼻腔に炎症が起こるのを防ぎます。自己注射で使用するタイプの注射薬で、当院でも好酸球性副鼻腔炎の新たな治療の選択肢としてデュピルマブを選択する患者さんが少しずつ増えてきました。


そのほかの比較的頻度の高い疾患について教えてください。

 「アレルギー性鼻炎」は、原因物質であるアレルゲンが鼻の粘膜に作用してアレルギー反応し、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状を引き起こします。症状が続くと頭痛や集中力の低下などで仕事や学業に支障を来し、生活の質を低下させます。アレルゲンで最も有名なのは、春や秋のスギやヒノキ、ブタクサなどの花粉です。季節に関係ないものとして、ダニやハウスダストなどがあります。2019年の全国疫学調査では日本人の49.2%が何かしらのアレルギー性鼻炎を持っており、花粉症の有病率も増加しています。アレルギー性鼻炎の治療には、抗原の除去と回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法があり、原因アレルゲンや症状の強さなどから最適な治療方法を検討していきます。当院では、手術療法の一つとして、鼻の粘膜にレーザーを当てて、アレルギーが起こりにくい状態にする治療法を導入しています。鼻水が出にくくなり、鼻づまりもよくなります。個人差はありますが、効果が数年続くのもメリットです。
 「めまい」で受診される患者さんも少なくないです。ぐるぐる、くらくら、立ちくらみのような症状などさまざまですが、何らかの原因で体のバランスがうまく保てず、生活に支障を来している状態をいいます。めまいを引き起こす原因もさまざまありますが、耳に原因があるめまいで一番頻度が高いのは「良性発作性頭位めまい症」です。内耳にある耳石器という器官から「耳石」というカルシウムでできた小石がはがれ落ち、隣に位置する三半規管に入り込んで起こります。治療は、頭部を決められた方向に動かす運動療法、リハビリが有効です。三半規管に迷い込んだ耳石をもとのあったところに戻すことで、症状を安定させることができます。めまいの多くは、正しく診断し、原因を突き止め、適切な治療を行えば完治や改善が見込めます。脳梗塞など命にかかわる疾患が隠れている可能性もあるので、簡単な病気と考えず、早期に受診することが大事です。
 眠っている間に呼吸が止まったり弱まったりする「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」も頻度の高い疾患です。SASは睡眠時に鼻から喉の上の気道が閉じ、空気の流れが止まってしまう病気です。肥満だと気道が狭くなりやすいほか、舌が大きい、鼻炎などで鼻の通りが悪い、顎が小さいといったことも原因になります。血液中の酸素濃度の低下や睡眠不足によるストレスを招き、放置すると心筋梗塞などの血管の病気を引き起こし、最終的には患者の寿命の短さにもつながっていることが研究により明らかになっています。そして、日中の居眠りから交通事故や労働災害など社会的に重大な影響を及ぼす病気として、その治療の重要性がますます高まってきています。検査は大きく分けて2種類あります。自宅で行う簡易検査と、一晩入院して行う入院検査です。いずれも医療保険の適応で、睡眠中の無呼吸状態や血液中の酸素濃度、心臓の状態などを測定します。睡眠検査でSASという診断がなされると治療を受けることができます。症状の重症度で治療法が異なります。軽症・中等症では、睡眠時にマウスピースを使います。下あごを前に出し、気道を広げることができます。中等症・重症には、寝る前に鼻にマスクを装着し、空気圧をかけた空気を送り込み、閉塞する気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する「CPAP(シーパップ療法)」が広く行われています。SASが疑われる症状としては、大きないびきや呼吸停止、睡眠を取ったのに頭痛やだるさがある、日中に強い眠気に襲われる──などがあります。朝すっきりと起きられないなど、睡眠の質が下がっていると感じたとき、背景にSASがないかどうか一度受診してみることをお勧めします。
 口の中や耳、鼻にもがんができることをご存じでしょうか。顔を中心とした部位のがんを総称して「頭頸部がん」と呼びます。日本では年間約3万3千人が罹患しています。喫煙や飲酒、ヒトパピローマウイルスなどが原因になります。症状は部位によってさまざまですが、頭頸部がん全体の約27%を占め最も頻度の高い口腔がん(甲状腺がんを除く)では、<口内炎のような症状が続く><口の中がしみる><口の中にしこりがある><首のリンパ節のしこり・腫れ>などが代表的な症状です。これらは普段もよくある症状ですが、なかなか治らなかったり、繰り返したりする場合には一度耳鼻咽喉科に相談してみましょう。治療は大きく手術と放射線の2つに分かれます。それぞれメリット・デメリットがあり、がんの広がりや進行具合によって患者さんと相談しながら決めます。近年は免疫チェックポイント阻害薬、ロボット支援手術など治療の選択肢が広がっています。最初にお話しましたが、頭頸部には生活するのに重要な感覚や機能が詰まっています。がんが進行して広範囲の切除が必要になれば、声を失ったり、飲み込みが困難になったりと生活に大きな影響が出ます。治療方針を決める際には、再発や転移を減らすための根治性だけでなく、機能の温存や再建、そして治療後の生活の兼ね合いを考えることも重要になります。当院では、頭頸部がんの治療実績に優れた北海道大学病院と連携し、手術と放射線、抗がん剤をがんの部位や状態によって組み合わせる集学的治療を行い、根治性と生活の質とのバランスを保った治療を実践しています。


最後に読者へのメッセージをお願いします。

 ここまで耳鼻咽喉科・頭頸部外科で取り扱ういろいろな疾患を紹介してきましたが、皆さんに絶対に覚えておいてほしい病名があと2つあります。それは「顔面神経麻痺」と「突発性難聴」です。
 ある日突然、顔の片側にゆがみが生じ目を閉じられなくなったり、飲もうとした水が口から漏れたりする病気が顔面神経麻痺です。まひのタイプにはいくつかありますが、最も発症率が多いのが、ヘルペスウイルスが原因となる「ベル麻痺」です。疲労やストレスなどが引き金になると考えられ、炎症を起こして腫れた顔面神経が、周囲の骨に圧迫されて傷つき、血流も悪くなってしまいます。何より厄介なのは、放置したり治療開始まで時間がかかったりすると麻痺が残る可能性があることです。異変に気付いたらすぐに治療を始めることが何よりも大事です。治療は、顔面神経に生じている炎症を軽減させるステロイドと、神経の損傷の原因となっているウイルスの活動を抑える抗ウイルス薬の投与が主体となります。また、麻酔科と協働して頚部にある交感神経節「星状神経節」をブロックする治療も有効です。いずれの治療も、早ければ早いほど効果的です。早期に治療を始めるにはまず原因を特定することが重要です。原因が分かれば次に麻痺の程度診断を行い、その結果に基づいて治療を開始できます。耳鼻咽喉科・頭頸部外科では原因の特定から治療までが一貫して行われるため、他科を回って時間をロスすることを防げます。少しでも顔の動きが気になったら、軽い症状だからとためらわず、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診してください。
 突然、耳の聞こえが悪くなる病気が突発性難聴で、ほとんどのケースで片方の耳だけに発症することが特徴です。つい先ほどまでは何も異常はなかったのに「急に」発症します。内耳にある、音を感じ取って脳に伝える機能を持つ有毛細胞にうまく血液が流れなくなることが原因とみられますが、はっきりしたことはまだ明らかになっていません。治療は、免疫の働きを抑えるステロイド薬や血流を改善させる薬など薬物療法が中心です。また、「星状神経節」をブロックする治療も有効です。とにかくこの病気も顔面神経麻痺と同様に早期に治療することが大切です。発症から1週間以内に治療を開始すれば、元に戻る可能性が高いとされていますが、治療開始まで時間がかかってしまうと残念ながら回復しないケースが多いです。
 耳鼻咽喉科・頭頸部外科で扱う感覚器障害などの病気は自然治癒することもありますが、早期に適切な治療をしなければ、回復しないものも少なくありません。顔面神経麻痺と突発性難聴はその代表格です。繰り返しになりますが、頭頸部とは息をしたり、食べたり、飲み込んだり、話したりする機能や、聴覚や味覚、嗅覚、平衡覚といった日常生活を営む上で重要な感覚が集まっている領域であることをしっかりと覚えておいて、そういう大切な役割を担う「首から上の目と脳以外」の範囲に異変や異常に気付いたら、放置しないで、できるだけ早く、手遅れにならないうちに耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診してもらいたいと強く願います。
 最後に当科の今後の展望ですが、広く、深く、全般的かつ専門的に診るというモットーは変わりません。ただ、さらなる高齢化の進展に伴い、食べ物を咀嚼して、飲み込む、若い頃は自然にできているこの行為が、加齢や病気などでうまくいかなくなる「摂食・嚥下障害」の治療にもっと力を入れていれたいと思っています。摂食・嚥下障害が引き起こす誤嚥性肺炎は、日本人の死因の上位に入っています。また、食べることは生きていくためだけでなく、生きる楽しみや喜びとして欠かせない要素です。地域の摂食・嚥下障害の治療の拠点として、口から食べる楽しみ・喜びを支える診療を目指していきたいです。

※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2023年9月時点(インタビュー時点)のものです。

    

         

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