DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


進化する放射線診断・治療、がんは切らずに治す時代に。

放射線科部長 西岡 井子

 今、放射線診断と放射線治療に注目が集まっています。画像所見をもとに、患者の状態を素早く診断したり、主治医が治療方針や切除範囲を決定するためのアドバイスを行うなど、放射線科の画像診断医の役割は広がっています。
また、手術に代わる根治的治療として、がんを切らずに治す放射線治療が、患者さんの身体にやさしく、臓器の機能も温存できることなどから日本でも利用が増えてきました。
 同科の取り組みや放射線診断医と放射線治療医の仕事、放射線治療のメリット、日々の検査・診断に懸ける思いなど、日本医学放射線学会認定放射線科専門医・放射線治療専門医の西岡井子放射線科部長にお話を伺いました。

放射線科ってどんな診療科ですか?

 近年、診療放射線技師と放射線科医の活躍を描いたドラマ・映画がヒットし、放射線科の仕事の重要性も少しずつ世間に認知されてきたように思います。放射線は診断や治療など医療現場で広く利用されています。当院の放射線科は、CTやMRIなどの検査画像をみて、患者さんの症状の原因を絞り込み、正しく病気を診断する「画像診断部門」と、放射線を用いてさまざまながんの治療を行う「放射線治療部門」があります。それぞれの領域の専門医と専任のスタッフが協力し合いながら検査・診断と治療にあたっています。

画像診断について詳しく教えてください。

 画像診断とはレントゲン(X線)やCT、MRI、RI検査(骨シンチ、甲状腺シンチなど)の装置を用いて病変を見つけ、正しい診断につなげるものです。主治医から検査のオーダーを受けると、その検査内容が適切か、ほかに適した検査方法はないか検証し、検査後は「読影=検査画像を専門的にみること」による結果を報告書にして主治医に伝え、患者さんに説明してもらいます。患者さんと直接、接することの少ない放射線診断医は医療・病院の裏方的な存在ですが、まさに縁の下の力持ちで、放射線診断医が関与するかどうかで診断の精度が変わります。適切な検査を行い、正しい読影ができて初めて、病変の見逃しを防ぐことができるのです。正確な診断にたどり着くには、考えられる疾患を一つずつ否定する地道さが求められます。また、院内のほぼすべての診療科の医師の相談にのり、診断や治療の方向性を示す放射線診断医は、欧米では「ドクターズドクター(医師のための医師)」と称されますが、頭の先から足の先まで全身の画像を見極められる能力が求められます。正しい診断がなければ、正しい治療もありませんから、決して見逃しがないよう常に危機感を持って、日々、さまざまな症例の画像と向き合っています。

がんの放射線治療について詳しく教えてください。

 私たちの身体の中ではがん細胞が毎日生まれていますが、通常は免疫細胞が退治してくれるので問題になることはありません。しかし、ある程度以上にがんが大きくなると、免疫細胞の力だけでは退治しきれなくなります。放射線治療は手術療法、化学療法と並ぶがんの三大療法の一つで、患部に放射線を照射することでがん細胞のDNAにダメージを与えます。DNAに傷がついたがん細胞は次の世代をつくり出せなくなり、がん細胞が増殖できずに死滅します。
 放射線治療の良い点は、がんになった臓器の形を残しながら、その臓器の働きを損なわずに治療をできる点です。例えば、乳がんの場合、以前は再発を予防するため早期でも乳房をすべて切除する手術を行っていました。しかし、乳房を全摘する手術では乳房温存手術に比べて再発は抑えられますが、女性にとって乳房が失われることが大きな苦痛になるケースも少なくありませんでした。その後、乳房温存手術後の乳房全体に5、6週間程度の放射線治療を追加する乳房温存療法による治療の有効性が確認され、現在では早期の乳がんに対する標準治療として確立しています。前立腺がんでは、手術後に起こりやすい尿もれや性機能障害が少ないです。
 また、手術や化学療法より身体的負担が少ないことも放射線治療のメリットです。糖尿病や心臓病などの合併症で全身麻酔ができない場合や、子どもや高齢者など手術が難しい状態であっても放射線治療であれば対応できる場合が多いです。そのほか、手術や化学療法などと組み合わせることでさらに効果が期待できること、入院せずに通院のみで治療を終えられることも多く、治療と仕事や家庭生活を両立させやすいこと、がんの原発巣をなくすためだけの治療だけでなく、転移した場合に起こる痛みなどの症状を和らげるための緩和治療もカバーできることも放射線治療の利点として挙げられます。一方、デメリットは頻繁な通院が必要となることです。放射線治療の照射時間は特殊な場合を除き、毎回数分程度と短いのですが、例えば乳がんだと合計16~30回程度、前立腺がんだと合計28~35回程度、週に4~5回、およそ1~2か月間、連続して通院することになります。そのようなデメリットを考慮して、当院では、病気の状態によって、緩和治療や定位照射では合計1~数回の通院で治療を行うこともあります。
治療期間中は放射線を当てた部分に皮膚炎や粘膜炎が起こりやすくなるという副作用もありますが、それら急性期反応のほとんどは治療が終われば症状がおさまります。過去には肺炎や腸炎などの晩期副作用が問題になるケースもありましたが、照射法の進歩により重篤な副作用の起こる頻度は激減しています。まずは、副作用を恐れずに、治療の適応があるかどうか主治医に相談してみてください。

放射線治療はどんながんにも効くのですか?

 放射線治療は全身のさまざまながんに効きます。手術と放射線治療が同等の治療効果を示すがんは少なくありません。放射線治療単独、あるいは抗がん剤と併用して完治が目指せる主ながんには、頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がんなど)、食道がん、肺がん、子宮頚がん、前立腺がん、肛門がんなどがあります。当院では主に乳がん、前立腺がんのほか、肺がん、消化器がん(食道がん、直腸がんなど)、血液のがん(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)、子宮頚がんに対する放射線治療を行っています。
 日本では放射線治療の分野は理解や普及が遅れており、先に挙げた放射線治療のメリットも一般にはまだ十分に知られていません。放射線と聞くと漠然と怖いというイメージを持つ方もたくさんいらっしゃいます。切らずに治すことができる低侵襲な放射線治療は、欧米ではがん患者全体の5〜6割に行われているのに対し、日本ではその割合は2〜3割程度というのが現状です。例えば子宮頸がんは世界では放射線治療が第一選択です。
 がんによっては、海外では放射線治療が常識なのに、日本では手術が行われることがしばしばあります。患者さんも含め多くの人が、放射線治療という選択肢を知らないのは本当に残念なことです。今後も、放射線治療に関する正しい知識を広く発信し、末期がんにしか使えないとか髪の毛が抜けるとか、そういった誤解を払拭し、放射線治療が身体への負担だけでなく、仕事や生活への影響も少ない治療法として正当に評価され、その恩恵が広く行きわたることを願っています。
 手術ができないと言われた患者さんでも、がんの放射線治療ができる可能性があります。がんの治療をあきらめる前に一度、当院のセカンドオピニオン外来を利用して放射線科にご相談ください。

どういったことを心掛けて治療にあたっていますか?

 放射線治療は、がんの種類や広がりによって照射する方法が異なりますので、その患者さんに合った治療計画を綿密に立てて、実施することがとても重要です。このため、放射線治療医や診療放射線技師など、専門のスタッフが揃ったチームワークのもとで治療にあたっています。
 また、がん治療は患者さん一人ひとりの状態に合わせて、さまざまな専門の医療関連職種が連携し合って治療や支援を進めていくチーム医療・集学的医療が広まっています。当院の特徴は診療科の垣根がないこと。一声かければ他科のスタッフも機敏に反応してくれます。煩雑な手続きも必要ないことが、早期診断・治療につながっています。この一体感とスピード感は、日ごろからすべての診療科が活発にコミュニケーションを取り、信頼し合える関係性をつくりながら日々の診療にあたってきたからこそ生まれたものだと自負しています。全職員の胸のうちに、困っている患者さんやご家族の力になりたいという想いや信念がしっかり息づいており、真に患者本位の医療が、ここでは実践されていると思います。質の高い医療の安定的な提供と、患者目線の思いやりのある診療姿勢を貫き、臨機応変で効率的な小回りのきく診療体制の構築を両立させていることが、当院の何よりの強みだと考えています。
 高齢化が進み、がん患者さんが増えていく中、手術や化学療法より身体への負担が少ない放射線治療の役割は今後ますます大きくなっていくはずです。がんになってもできる限り日常生活を変えずに治療を続けられるよう、自分らしく生きられるよう患者さんを支援していきたいです。

最後に読者にメッセージをお願いします。

 画像診断部門では、2022年に最新型の320列マルチスライスヘリカルCTを導入し、さらなる診断能力の向上を図りました。1回転で心臓や脳などの臓器全体を撮影できるほか、連続撮影した画像を時系列に並べることで動画を構成し、臓器の動態や血流状態を立体的に観察できるようになりました。1回転0.275秒で撮影が終了するため、撮影中の息止めや体動抑制による患者の負担が軽減され、小児や重篤な患者も鮮明な画像が得られます。心臓検査の場合、X線照射による被ばく量を従来機種の4分の1程度まで低減でき、また撮影時間が短いため、造影剤の使用量を抑えられます。
 放射線治療部門で使っているリニアック(放射線治療装置)は、放射線照射位置をミリ単位で制御し、病巣部に多方面から正確に照射できるハイエンド機種です。一般的な治療のほか、小さながんに効果を発揮する「定位放射線治療」や、皮膚マーカーなしでも正確に位置決めができる「SmartAliner」などを用い、腫瘍を3次元的に照射する高精度な治療も行っています。臓器は放射線治療中も呼吸などにより動きます。特に肺は呼吸のたびに腫瘍の位置が動くため、動く範囲を計算した治療が必要になりますが、この機種はがんの近くに目印となる金マーカーを埋め込み、その動きをX線透視装置でリアルタイムに認識しながら治療を行う「動体追跡放射線治療」も行うことができます。装置の性能向上により、正常な組織にはできるだけ放射線を当てず、より効率的に、より集中的にがんに照射できるようになり、副作用の少ないがんの根治的治療を目指しています。
 診断から治療まで、放射線はさまざまな場所で利用され、病院の医療・診療を支えていることを少しでも知ってもらえるとうれしいです。今後も新しい医療機器や研究成果を踏まえて診断能力も治療成績も良くなっていくと期待されています。放射線診断・放射線治療という方法があることを知っていただき、より身近な検査・がん治療の一つとして、道民の皆さんに活用してもらいたいです。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2022年11月時点(インタビュー時点)のものです。

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